成長と推論

人間の成長を「推論の更新」と定義する。

例えば

アオハルで「相手に持たせる守備」という概念を獲得したシーンがある。

おおまかに言うと、「攻撃側のチャレンジ方法は限られる」かつ「攻撃を読めれば急所がわかる」という前提から、「急所を抑えれば守備になる」という概念を獲得したといえる。つまり、「1トップがドリブルで突破する」というチャレンジ方法しか持たないチームには「そのトップにパスを出させない」または「マークの数を増やす」という急所の抑え方がある。考え方としては結局その1トップ以外にゴールに迫る方法がないのであれば、そこを抑えておけば相手にボールを持たせても問題がない、というのが「相手に持たせる守備」の意味だ。

このような推論による概念の獲得を成長と定義する。

以上より成長能力は推論能力といいかえることができる。そしてその推論能力の向上のがいわゆる人間的成長と定義できる。

例えば

富樫があしとにプライドを捨てて教えを乞うシーンは「視野の広さ」が前提となっている守備概念の推論更新につながっている。そしてこれは「自尊心のために自分以上の成長を認めないべき」という概念を捨てて「どんな相手であろうと自分の推論の更新のためには教えを乞うべき」という概念に自分の心理システム上の概念を更新している。

以上をまとめると成長とは特定の分野の推論の更新と抽象化できる。特に推論を行う心理システム上の推論更新は「人間としての成長」といえる。                                                        

信念と集合論

「信念」を行動を要素とする集合と定義する。

例えば

他人に期待しない(信念)∋怒らない(行動)

となる。

「信念と強さ」を集合としての大きさと定義する。

例えば

他人に期待しない⊃利己主義

となる。

すると、信念は下に閉じた集合とみなせる。

(利己主義∩人は平等)=他人に期待しない

(利己主義∩人は不平等)=他人に期待する

利他主義∩人は平等)=他人に期待する

利他主義∩人は不平等)=他人に期待しない

 

 

カイジの心理戦の凄さ

絵が個性的なため嫌厭している人も多いだろうが、最も人の極限を表現できている漫画の一つだと思う。圧倒的な絶望に対して、持てる力の全てを、命を賭けて戦うカイジ、そして新たな絶望。。。と現実だと気が狂うであろう地獄ループを真っ向から受けて立つ様はまさに極限状態で、読みやすい漫画であるのに精神的な疲労が半端ではない。

ギャンブル漫画においては心理戦の面白さは言うまでもなく、非常に重要な要素である。読者はカイジの戦略にワクワクし、敵の策略に驚愕し、ここ一番の天運に痺れたり絶望したりしながらカイジの極限状態を追体験する。

 

ここではカイジの心理戦の凄さについて書き留めたい。

 

心理戦において重要なのは相手の心を読むことである。そして心を読むのに必要なのが相手の視点である。相手から見た盤面や相手の性格、相手から見えている自分など様々な視点から相手の考えを読むことができる。つまり如何に相手の視点を把握するかが勝負であり、実際カイジでも9割のページが相手の視点の考察に割かれている。

一方作者はカイジと敵の両方の視点を全て持っていて、どちらかに視点を欠けさせたり、新たな視点を作ったりすることで勝負に傾きを作ることができる。この視点を与えたり消したりするバランスが素晴らしいのだ。

 

基本的にカイジも相手も思慮深く、相手の視点を慎重に把握しようとしていて、漫画にリアリティを持たせながら、作者の意図する流れを作るのは非常に高度な技量が必要だ。そしてここがカイジの心理戦の凄さの中核だと思う。

 

その凄さを伝えるために、カイジにおいて視点の傾き(相手の視点が読めなかったり、新たな視点が生まれること)が生じる例を3つ挙げてそれぞれ見ていきたい。

 

それは「信念、成長、奇跡」だ。

 

「信念」;カイジの勝負に対する覚悟、優しさなどその人の持つ信念が相手の読みを上回り、勝負に勝つ場面がいくつか見られる。この信念はカイジの戦う理由であったり、勝負のテーマであったりしていて、彼らの人間性を表したり、彼らが負けられない理由を伝える役割も担っている。これによって勝負に傾きを生める上、勝負の熱さを加速させている。

 

「成長」;カイジが過去の失敗から学び、相手の読みを上回る場面も見られる。この漫画のセリフ回しや表現の鋭さと相まって、これまた読者を熱くさせてくれる。

 

「奇跡」;カイジの信念や成長からとんでもない展開を生み、相手の読みを上回る。いわゆる伏線回収を行う場面で、この漫画の醍醐味だと言っていいだろう。またこの「奇跡」は友情や覚悟など明確なテーマをもって描かれており、それぞれのテーマに対する深い理解を感動と共に与えてくれる。

 

以上のように、心理戦においてのハードルである「傾き」を生みつつストーリーの「面白み」をつけているのがこの漫画の凄いところだと思った。

深く多様なゲーム観に感銘する本~ゲーム化する世界

ゲームが人の世界観や心に与える影響を多様な視点から分析している本。

「ゲームをすることによって私たちが何者になるのか、ゲーム体験は私たちの世界をどう変容するのか」を多角的に検討している。

 

身近な存在であるゲームに対して、今まで考えたこともないような視点による深い洞察が示されていて、「確かにそうかも。。。!」という驚きがいくつもあった。それによってゲームというものの見方が大きく変わったし、人の世界観をここまで深く客観的に分析することができることに驚き、非常に興味深く読めた。今まで人の感情など曖昧なものだと考え深く考えたことはなかったが、人の感情に環境が与える影響についての客観的な視点を得たように思う。

 

しかしいくらか客観的とは言え、いまだ完全に定量化できる分野ではないので、研究者たちの主観が強く、納得できない部分もいくらかあった。そういう点も、教科書のように完成された理屈でないが故の飛躍した多様な理屈が見られて示唆に富んでいるように思う。

 

 

この本を読んで僕が思った「ゲームとは何か」という問いに対する答えを書き留めたい。

 

結論から言うとゲームとは、人に特定の感情を味わわせるための遊びである。

例えば現実にサッカーをプレイすると、相手をドリブルで抜く快感やスルーパスを受ける緊張感など、様々な感情を感じることができる。また監督になれば采配や指示をすることによって得る楽しさも感じることができる。

一方ウイニングイレブンではプレイヤーはピッチに立つ選手と監督両方の役割を演じることができ、両方の感情を簡易的に味わえる。

 

このようにゲームは、本来特定の環境で特定の複雑な動作や行為を行わないと得られないようなスリルや緊張感や快感の中で製作者が切り取った部分を、(ドラックが簡易的に快感を味わわせてくれるように)簡易的に味わわせてくれるのである。

 

 

“炎上と拡散の考現学”を読んで思った炎上の本質

この本を読んで炎上、拡散の本質に気づけた気がするから書き留めておきたい。この本自体は主張の検証が甘いと思うのであまりオススメしない。(アイデアとデータは示唆に富んでいて興味深いと思う。)

 

炎上と拡散のキーポイントは「視点」だ。

 

世の中のものには様々な見方があり、人々はそれぞれの視点でその対象を解釈する。炎上とは本来独立しているはずの人々の視点が、「これは不正だ」「これは悪だ」など否定的な面のみに偏っている現象だ。(拡散する場合は肯定的な面のみに偏る。)

 

三者の発信する情報には、本来あった視点がいくつか抜けており、その意味で情報は変質している。(作者の定義した「変質」とはおそらく違う意味だろうが)そしてその投稿を見た人の視点はその投稿の視点から情報源を見てしまい、炎上が起こる

 

 

本書で紹介されている炎上例を使って具体的に見てみよう。

 

サイバーエージェント」の炎上

サイバーエージェント代表取締役藤田晋氏が自社を中途退職した社員に激怒して、新聞の有料サイトに(社員目線を無視した)コラムを書き、炎上しました。(本書の116ページ参考)しかし、終盤になるとこのコラムは経営的判断としてはまともであるという意見がでてきて収束していきます。

 

はじめは「社員目線を無視して激怒するなんて間違いだ!」という視点によって藤田氏が叩かれて炎上していたが、「経営的判断としてはまとも」という視点が現れることによって炎上が分散して収束している。(詳しくは本書で)

 

本書で紹介されている炎上具合を表す曲線の変曲点や極地はおそらく視点の変換点であり、その炎上の本質を知るにはそれぞれの発言がどの視点から書かれているのかを分析すればいいだろう。おそらく視点を明確にしたり視点を変えたりする投稿と、全体の流れに沿った時とともに連続的な視点を持った投稿に分類できると思う。すると炎上を加速させる発言、減速させる発言など興味深い発見があるはずだ。

 

ある投稿を全ての人に見てもらうのは不可能でも新しい視点を紹介することによってそれを見た人の視点を変えることができる。そしてそれは帰納的に続く。。。

つまり視点は「流れる方向」を決定づけることができるのだ。

 

 

 

謝罪や反論で炎上を止めることは出来なくとも、人々の視点を変える投稿ができれば、炎上を止めることができるのかも知れない。

 

カオスで壮大な世界を臨場感をもって味わえる〜群青のマグメル〜

未開の新大陸で探険家達の救助を生業とする主人公のヨウと、その仲間たちの活躍を描く探検ファンタジー漫画。(Wikipediaより引用

タイトルとコミックの表紙がなんだかダサく感じてあまり期待していなかったが読んでみると非常に面白かったのでおススメしたい。

 

この作品の特徴としてまずカオスで壮大な世界を見事に表現できていることを挙げたい。

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大陸の知的生命体

上のような得体のしれない生物や環境を多様に描いており、なにが起こるかわからない緊張感と未知への期待でワクワクさせてくれる世界が表現されている。

 

もう一つ大きな特徴としてここまで壮大なファンタジーであるにも関わらず、一方でドキュメンタリー番組であるかのようなリアルさがあることを挙げたい。作者が存在する漫画である以上、作者の思惑によってストーリーは進んでいくが、この作品はそれを感じさせない。例えば愛着の湧きそうなキャラや面白いキャラでもこの世界で弱ければ死んでしまう。作者の思惑とは独立してこの世界の冷酷な理が存在するかのようなリアルさがある。また週間漫画などで見られるような読者に媚びた展開などがなく、web漫画のように作者が描きたい世界観がぶれずに描かれているように感じる。この飾らないリアルさが奇妙で独特な生物達の生態や、登場人物達の行動に納得感を与え、壮大な伏線であっても、次の展開に対する期待がどんどん高まっていく。

なによりこのリアルさ故に、何気ない台詞であっても、溢れる愛情や燃えるような怒りが、読む者の心に染みるように伝わってくる。読者の中には無意識なくらい自然に登場人物に感情移入させられ、気がつけば心をえぐられるほど深く入り込んでしまった人も多いだろうと思う。。。。あのじじい。。。

 

以上がこの漫画の大きな特徴であり、HUNTER×HUNTERとの共通点であるように思う。HUNTER×HUNTERとの相違点としては、脇役達の行動の自由度だろう。HUNTER×HUNTERでは脇役達がそれぞの考えのもと自由に動いており、彼等の目的がはっきり示されているにも関わらずどうなるかわからない、先が読めないカオスさがある。一方群青のマグメルは4つの勢力がそれぞれほぼ一枚岩で、大抵はグループとして一貫した行動を取るのでHUNTER×HUNTERほどの複雑さはないと思われる。

 

 

 

ぷちゃお:もっとPRを上手くやればこの漫画めちゃめちゃ売れると思う。最初は富樫に似てるって嫌厭してたやつもここまで読めば絶対ファンになる。

匿名:謎が謎を呼ぶ にも関わらずこの勢い!この熱さ!1話からずっと読み続けているよ。最高に熱いジャンプ漫画だよ。

匿名:この作者は将来のジャンプの看板やな。 

匿名:うおおおおおおくっそおもしれえええええええええ!!!!!!

 

ジャンプ➕ 群青のマグメル 53話 コメント欄より引用