カイジの心理戦の凄さ

絵が個性的なため嫌厭している人も多いだろうが、最も人の極限を表現できている漫画の一つだと思う。圧倒的な絶望に対して、持てる力の全てを、命を賭けて戦うカイジ、そして新たな絶望。。。と現実だと気が狂うであろう地獄ループを真っ向から受けて立つ様はまさに極限状態で、読みやすい漫画であるのに精神的な疲労が半端ではない。

ギャンブル漫画においては心理戦の面白さは言うまでもなく、非常に重要な要素である。読者はカイジの戦略にワクワクし、敵の策略に驚愕し、ここ一番の天運に痺れたり絶望したりしながらカイジの極限状態を追体験する。

 

ここではカイジの心理戦の凄さについて書き留めたい。

 

心理戦において重要なのは相手の心を読むことである。そして心を読むのに必要なのが相手の視点である。相手から見た盤面や相手の性格、相手から見えている自分など様々な視点から相手の考えを読むことができる。つまり如何に相手の視点を把握するかが勝負であり、実際カイジでも9割のページが相手の視点の考察に割かれている。

一方作者はカイジと敵の両方の視点を全て持っていて、どちらかに視点を欠けさせたり、新たな視点を作ったりすることで勝負に傾きを作ることができる。この視点を与えたり消したりするバランスが素晴らしいのだ。

 

基本的にカイジも相手も思慮深く、相手の視点を慎重に把握しようとしていて、漫画にリアリティを持たせながら、作者の意図する流れを作るのは非常に高度な技量が必要だ。そしてここがカイジの心理戦の凄さの中核だと思う。

 

その凄さを伝えるために、カイジにおいて視点の傾き(相手の視点が読めなかったり、新たな視点が生まれること)が生じる例を3つ挙げてそれぞれ見ていきたい。

 

それは「信念、成長、奇跡」だ。

 

「信念」;カイジの勝負に対する覚悟、優しさなどその人の持つ信念が相手の読みを上回り、勝負に勝つ場面がいくつか見られる。この信念はカイジの戦う理由であったり、勝負のテーマであったりしていて、彼らの人間性を表したり、彼らが負けられない理由を伝える役割も担っている。これによって勝負に傾きを生める上、勝負の熱さを加速させている。

 

「成長」;カイジが過去の失敗から学び、相手の読みを上回る場面も見られる。この漫画のセリフ回しや表現の鋭さと相まって、これまた読者を熱くさせてくれる。

 

「奇跡」;カイジの信念や成長からとんでもない展開を生み、相手の読みを上回る。いわゆる伏線回収を行う場面で、この漫画の醍醐味だと言っていいだろう。またこの「奇跡」は友情や覚悟など明確なテーマをもって描かれており、それぞれのテーマに対する深い理解を感動と共に与えてくれる。

 

以上のように、心理戦においてのハードルである「傾き」を生みつつストーリーの「面白み」をつけているのがこの漫画の凄いところだと思った。